Pick Up Artist
小林 大賀 Taiga Kobayashi

 
作品は自分よりも自分を知る存在。
アートのセラピー的側面も学びたい。

 小さい時から、ものをつくることは好きでした。母が絵を描いていたので画材は身近にあったし、振り返れば整った環境で育ったと思います。ただ、自ら「アーティストになりたい」と強く思った記憶はありません。そのときに作りたいものを作る、やれそうなことをやる、ということを続けた結果、今ここにいる、という感じでしょうか。

 表現が、映像、絵画と定まっていないのも、その時々の衝動を形にする表現方法で続けてきたからだと思います。ただ、扱う素材の幅が広いことは、札幌市立高等専門学校の工芸デザイン科で学んだことが大きいと感じます。木工、彫金、陶芸などの課題があったので、さまざまな素材に触れることができました。例えば映像制作で、オブジェを作って撮影し、背景とデジタル合成する手法を用いることがあります。デジタル処理するものでもアナログな感覚があるとバランスがとれます。最近まで意識はしていませんでしたが、素材や手法を混在させて、それを統合することが好きなのかもしれません。もっと言えば、バラバラになっている人生の統合も創作は助けてくれる。そういうところが面白いと思います。

絵本『謝肉祭』より

 学生時代は、仲間といろいろなことをするのに熱中していました。バンドを組んだり、教授の写真作品の制作を手伝ったり、そうした活動の延長で卒業制作は演劇作品を制作しました。授業や課題の他に、そういう表現に関わったことが現在に直接影響していると思います。

 私は、伝えたい思いや届けたい人が起点になって作品を作り始めるというより、「夢をかたちにする」タイプだと思います。自分の中に浮かび上がる夢というかアイデアを、身の回りの素材や環境を生かして作品にしています。制作衝動が生まれた時の準備として、素材集めは常日頃行っています。

さっぽろ天神山アートスタジオ合宿プログラム2023ポスター原画

 芸術は、自分の中のマイナスの部分を作品の中でプラスに変換できるところが魅力だと思います。作品に意味を込めることは特に意識していませんが、完成したものを見ると自分が表されていると感じます。私よりも、作品を作る手の方が私をよく知っていて、それを形にして見せてくれている、とさえ思うことがあるくらいです。それを特に強く感じたのが、2023年に制作した絵本「謝肉祭」です。一枚の絵として誕生したイメージを、物語的に、映画的に作品にできないかと構想したのがスタートでした。以前から興味があった絵本という表現方法に決めたのですが、絵を描くことと絵本の原画を描くことは全く違うと思い知らされました。普通絵を描くときは、一枚で見せたいものを完結させますが、絵本の場合は何枚にもわたって物語が流れていくようにしなければならない。それがこれまでと違ってとても難しかったです。これは物語でフィクションだけれども、私のドキュメンタリーでもあり、自分を語り直した作品になっているように感じます。

個展『謝肉祭』Toov cafe/gallery 2023年

 以前から心理学や宗教には興味があったのですが、最近はアートのセラピー的側面に強く関心を持っています。この秋から「ほっかいどう未来チャレンジ基金」の助成を受けてメキシコで研究員として約10カ月研修をすることになりました。メキシコには、優れた芸術とともに独特の精神文化があり、それらをリサーチしながら映像制作を行いたい考えです。

映像作品『Dear little world』2020より

自然がアイデアをくれる南区で、
継続的に制作・発表できる場を。

 南区は私の生まれ故郷でもあるので、この界隈も幼いころからなじみのある場所です。離れていた時期もありましたが、やはり、すぐそばに自然があるこの雰囲気は自分に合っていると思います。私の作業部屋の窓から見える山の斜面の景色は特に気に入っています。近所を歩いているときに、素材集めができたり創作のアイデアが湧いてきたりすることもあります。南区芸術祭2022も開催されたので、これから盛り上がっていくといいですね。私がコーディネーターとして携わってきた「さっぽろ天神山アートスタジオ」は南区に関連した活動も行っているので、継続的な制作・発表の場づくりに関わっていくことができればと思います。(談)


1986年札幌市生まれ。

札幌市立高等専門学校工芸デザイン科を卒業後、自身のパフォーマンスグループを率い、札幌、東京を拠点に公演を行う。2012年、奨学金を得てアメリカ、スペインに滞在。自転車でアメリカ西海岸を縦断しながらグラフィック作品を制作する。


近年は主に絵本、絵画作品を制作するほか、詩人・三角みづ紀(22ページ参照)との映像制作や、地域のダンスコレクティヴのクリエイションに携わるなど、活動は多岐にわたる。アーティスト・イン・レジデンス「さっぽろ天神山アートスタジオ」でコーディネーターを務めつつ、アーティストのドキュメント映像や広報物デザインを多数制作してきた。


2023年秋より「ほっかいどう未来チャレンジ基金」の助成のもと、El Colegio de Mexicoの客員研究員として、約10ヶ月の研修をメキシコにて行う。


〈主な活動〉
近年の上映歴、参加作品、個展等

・Festival of Nations 2020(オーストリア)にて短編映像作品「風の回廊」(監督、脚本、主演、美術、編集)を公式上映

・主演を務めたJun Chong監督の短編映像作品「Autumn」がAustria Independent Film Festival 公式上映

・EU-JapanFest日本委員会主催の配信プログラムKeepgoing TOGETHERにて三角みづ紀との共同制作映像シリーズ「yukue」「雷鳴」「今日の天使」「モビール」「骨」「影の湖」を公開

・さっぽろだんすこれくてぃゔ「声」「My Foolish Heart」「CATAPULT」

・2022年 グループ展「南にモンパルナス」

・2023年 絵本「謝肉祭」を上梓し、Toov cafe/galleryにて原画展を開催

・2023年 メキシコのサンルイスポトシ国際文学祭に招聘される

E-mail taiga.kob@gmail.com


https://www.taigakobayashi.com

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