アートを通して、アイヌがもつ感覚、
価値観のようなものを伝えたい。
南区石山から眺める硬石山の風景に惚れてしまい、 2006年に引っ越してきました。切り立った崖、そ の山塊に沿って下る豊平川の流れ。アイヌは川のそば に暮らしているというイメージが自分のなかに強く あるんです。
私が生まれたのは、道東・釧路の紫雲台という海に 近い場所。最後のアイヌコタンと呼ばれる春採コタン があったところで、アイヌ専用の銭湯や保育園なども ありました。古くからアイヌの人たちが生活していた その場所で、父である結城庄司は、昭和の時代にアイ ヌ解放の運動の急先鋒を担っていた人物でした。今で こそ、そんな父を尊敬していますが、アイヌ文化の輪 郭のようなものは、父母の離婚後、私を育ててくれた 祖母が伝えてくれたことが大きいですね。
その祖母が亡くなると、私は神奈川県の叔母のも とで暮らすことになりました。7歳の頃です。そして、 歳から 年間にわたって、不動産会社で働きました。ところが、いわゆるバブルが弾けて倒産。社会から 放り出されて心の拠り所をなくすなか、たまたまネイ ティブアメリカンの本を読んだ時に、アイヌとしての おばあちゃんの姿、ムックリ(口琴)やウポポ(座り歌) を聞いた時に感じていたことがフラッシュバックしたんですね。
自分のなかのルーツに出会ったという感じでした。
東京にあるアイヌのコミュニティでアイヌ文化について学びながら、いつしか故郷の北海道に目を向けるなか、伝統的な船である板綴船(イタオマチプ)をつくるという話をいただき、家族で北海道へ戻ることに。そして、その時に集まったアイヌの仲間と2000年に「アイヌアートプロジェクト」立ち上げました。
「アイヌアートプロジェクト」は、アイヌ伝統文化と現代アートの融合を目的としたグループです。プロ ジェクトといっても、堅苦しいものではなく、私が取 り組んでいる木彫りや版画でも、絵でも刺繍でもいい し、踊りや伝統楽器の演奏でもいい。ハードロックを やっているメンバーもいます。何からの表現を主体と してアイヌ文化を知ってもらいたい、感じてほしいと 考えているんです。
たとえばアイヌは雪が積もると〝山が着替える〟と言います。少し前までは、黄金色や赤をまとってい たものが、今は銀色の服を着ている。自然と向き合う 時のそんな感覚、世界観のようなものを、私自身が感じるインスピレーションを通して表現したいという のが願いですし、アイヌとアイヌ以外の人、世代と世 代の間に入り込んで、お互いを紹介したり、響き合う きっかけをつくる、といったことをしていきたいですね。
アイヌは自然とともに生きる民などと、よく言われますが、この北海道の豊かな自然に触れれば、誰しも何かを感じるはずです。
車で 分も走れば海に出て、 分も走れば深い山 がある。そして、大都市の真ん中に豊かな川が流れて いる札幌も、十分にそんな気持ちにさせてくれます し、札幌のなかでも、森の豊かさ、景観の素晴らしさと いう点で、南区は最も〝才能〞がある場所だと私は感 じています。アイヌアートプロジェクトではライブな どを行っているほか、小学校でアイヌの伝統文化など を教える活動もしています。南区のこの地を発信源 に、作品とともに子どもたちにアイヌの精神性など も、伝えていきたいですね。
南区から新たな神話を
紡いでいきたいですね。
私は、南区から新たに神話的な話を紡いでいくのも いいのではないかと考えています。最近は熊が出没 し、人々が警戒するような状況になっていますが、木 彫りや版画を通してその熊の代弁者になる人がいて もいいかなと思いますし、鹿の視点で人間を見て、 ちょっと揶揄するような表現があってもいい。そんな 活動を通して、多くの人に南区の魅力を知ってもらえ れば嬉しいですね。(談)
釧路市生まれ。
2006年から南区・石山に在住し、版画や木彫を中心に現代アートの制作活動を行う。
東京で約10年間のサラリーマン生活を経て、ネイティブアメリカンの本に出会ったことをきっかけに、アイヌ活動家だった父・結城庄司の本を読むようになり、創作活動を始める。
「アイヌアートプロジェクト」の代表を務め、音楽活動も行っている。
作品展示 八剣山ギャラリー
(札幌市南区砥山194-1 八剣山ワイナリー内)
結城 幸司 HP
https://www.hakkenzan-gallery.com/yuki/
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