場所や人を知ることから始める、
地域ごとのアートプロジェクト。
例えばプロジェクトを考え始める時に、まず現場をリサーチしたり、文献を読んだりします。
私の場合は、そうしてインプットされたイメージや概念がまとまらず、頭の中で散らばったままでいることが多いです。
それらを整理してまとめるのはとても苦手なのですが、散らばっている中から異なるイメージをブリコラージュ的に結び付けて、新しく何かを考え出すのは得意。それがアートプロジェクトの企画に結びついていると思います。
アートプロジェクトの仕事は依頼をいただいて始めることが多いですが、事前に要望が具体的に決まっていることはほとんどなく、まずはその場所のことを見たり調べたりして学び、インプットした情報の中からイメージをつなぎ合わせ、企画を立てていきます。
私は山梨で生まれ育ち、大学から静岡へ。教育学部で美術教育を専攻し、2年生の後半から自分の作品の制作を始めました。
一つ制作し終わると数カ月くらいは学外で展示をすることもほぼなく、わりと内にこもっているタイプでした。
大学を卒業した2006年、友達が出る展覧会で、肉塊のような着ぐるみに入ってパフォーマンスを行う作品に無理やり参加させてもらって(笑)。※1
それをアップデートしたものを茨城県の「取手アートプロジェクト」の公募展に出したことがきっかけで、いろいろな芸術活動をしている人たちに出会い、美術に対する見方が大きく変わり、社会というか外を見るようになっていきました。
取手アートプロジェクトは、1999年から取手市と市民、東京藝術大学の三者で始まったもの。
当初は2年に1度、野外公募展を行っていましたが、その形式を2008年でやめ、地域密着型のアート活動にシフトチェンジしました。私は高齢者の住民が多い団地の中に作られたコミュニティカフェで、2011年に《とくいの銀行》というプロジェクトを企画しました。
住民の「とくい」なことを銀行が預かり、その「とくい」を引き出してイベントを行うもので、今も運営が続いています。※2
2013年には山口で、翌年には札幌国際芸術祭で《とくいの銀行》のプロジェクトを実施。※3
それがきっかけで妻と出会い、札幌に住まいを移しました。
それより少し話がさかのぼりますが、私は2013年度まで静岡県浜松市の高校で非常勤の美術講師として勤務していました。
講師をしながら各地のアートプロジェクトに参加し、浜松では知的障がいのある人がアートを通して社会の中で共生し、豊かに生きていくための活動をしているNPO法人クリエイティブサポートレッツにスタッフとして関わっていました。
レッツは障がいのある人がいるアートセンターを街の中につくるための活動をしていました。
私は、理事長の息子で重度の知的障がいを抱える「たけし」のためだけに、彼のやりたいことをやりきる公共文化施設をつくればいいと思い、鈴木一郎太さんという当時のスタッフと共に「たけし文化センター」という施設を2008年に提案しました。
誰のためでもない漠然とした場ではなく、誰か一個人のニーズに応えつつ、それを開いていくことこそが、本当の公共につながると考えたからです。
今、「たけし文化センター」は、中心市街地で福祉施設として運営しながら、いろいろな文化事業も行っていて、私もときどき参加させてもらっています。※4
とくいの銀行とたけし文化センターの2つが、私が公共について考えるようになったきっかけです。
内向気味の私が、障がいのある方や一般の方々と関わることで、内向気味のままで公共について考えても良いというか、むしろそれが重要なのかもしれないと考え始めたことが、今の仕事につながっているような気がします。
子どもたちと一緒に
南区の火山灰からガラス作り。
2022年2月に天神山アートスタジオで、子どものためのアートプログラム「千鳥石火山灰ガラスクラブ」を企画しました。
コロナで札幌にいる時間が増え、自分が暮らす澄川付近の土地の歴史を調べたところ、4万年前の支笏火山の火山灰地層でできていることを知りました。
火山灰にはガラスの原料であるケイ素が含まれていて、サッポロビールの瓶の原材料としても使われていました。
紅櫻公園内の地層から火山灰をみんなで採取し※5、南区のガラス作家・上杉高雅さん、地域の地学歴史に詳しい伴野卓磨さん、陶芸家の上ノ大作さんらと一緒にガラス生成を行うワークショップを行いました。※6
外に窯を作って、上から雪をかぶせて煙突だけを出し、雪山のてっぺんから煙が出ている火山のように見立てて…。子どもたちも楽しんでくれていましたが、私自身も楽しかったですね。※7
(談)
1984年 | 山梨県生まれ 札幌市在住 |
〈主な個展〉 | |
2010年 | うんこふみふみたかふみ文化センター たけし文化センターarsnova 浜松 |
〈主なグループ展〉 | |
2006年 | 取手アートプロジェクト 取手 |
2007年 | 深澤孝史、高杉悦生二人展 Gallery sensenci 静岡市 第8回SICF スパイラル 東京 |
2012年 | 大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ 十日町市・津南町 |
2013年 | 山口情報芸術センター10周年記念祭 LIFE BY MEDIA |
2014年 | めぐるりアート静岡 おべんとう画用紙 静岡文化芸術大学ギャラリー 浜松 札幌国際芸術祭2014 札幌市 富士の山ビエンナーレ 富士市 |
2015年 | 大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ 十日町市・津南町 |
2016年 | 茨城県北芸術祭2016 常陸太田市 |
2017年 | 本郷新記念札幌彫刻美術館 家族の肖像展 札幌市 奥能登国際芸術祭2017 珠洲市 |
2018年 | 雪あそび博覧会 越後妻有里山現代美術館[キナーレ] 十日町市 大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ 十日町市・津南町 THAILAND BIENNALE Krabi EDGE OF THE WONDERLAND Thai krabi |
2019年 | 雪あそび博覧会 越後妻有里山現代美術館[キナーレ] 十日町市 Reborn-Art Festival 2019 石巻市 のせでんアートライン2019 豊能町 |
2021年 | かけがわ茶エンナーレ2020+1 掛川市 山梨アートプロジェクト2021 山梨県立美術館 甲府市 |
2022年 | 北越雪譜ワンダーランド 越後妻有里山現代美術館 MonET 十日町市 大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ十日町市・津南町 |
2024年 | 大地の芸術祭「アケヤマー秋山郷立大赤沢小学校ー」監修 津南町 |
https://test.sapporo-minami-artfes.jp/artists-file/3424