北海道ならではの表現を追求し、
この地の〝伝統工芸〟を目指したい。
私の作品であり、工房を代表するプロダクトに「つららシリーズ」というものがあります。つららは、屋根などにできる氷柱のこと。雪のなかにつららを円形に並べて立て、そこにガラスを吹き込んで制作します。摂氏1000℃を超えるガラスと、氷点下のつららが一瞬、触れ合って、氷が溶けると同時にガラスの造形
が生まれる。
いわば、つららの形をガラスに写しとっているわけですが、そこにはつららができあがるまでの時間の経過のようなものも映り込んでいるという感じがあって、おもしろみを感じています。デコボコした氷の形が、気温や湿度に影響されながらその時々の姿で残る。北海道ならではのガラスではないかと自負しています。
小さい頃から、ものをつくることが好きで、小学校の時には、伝統工芸と呼ばれているものに漠然とした興味を抱きました。きっかけは、授業で輪島塗りについて知ったこと。一つの器をつくるために生地師、塗り師など修行を積んだ職人が関わり、15以上の工程が必要になる。すごいなと思う反面、工業製品が手軽に手に入る時代、なくなっていくかもしれないと感じていました。
でも、なくしてはいけない。そう感じて、自分は将来、工芸的な分野に関わりたいと思うようになりました。ところが、北海道には伝統工芸と呼べるものがほとんどない。そんな時、高校卒業後の道を考えながら訪ねた小樽で出会ったのがガラスでした。話を聞いてみると、北海道はガラス工房の数が全国でも有数だということがわかったんです。
一方で、日本中を見渡しても、ガラスの産地といったところはないんですね。ガラスが本格的に日本に入ってきたのは100年ちょっと前。江戸切子などよく知られるガラス工芸も、職人さんのルーツはせいぜい4代、5代前。その意味では新しい技術です。
だからこそ、近代の歴史が新しい北海道でガラス工芸に取り組み、この先300年、400年と続いていけば、北海道の〝伝統工芸〞になっていく可能性もある。大きな話ですが、そうしたことも考えて、ガラスの技法を教える東京の学校で学び、工房での経験を経て山梨県に工房を設立しました。ガラスに触れてみて痛感したのは、難しい素材だということ。熱いので、木や金属、粘土のように制作の過程で直接、手で触れることができません。変化する形を操るには瞬発力もいるし、長い鍛錬が必要になります。でも、だからこそ一生追求できる部分がある。そこにも魅力を感じました。
南区石山に工房を移したのは2005年のこと。いずれは故郷の北海道に戻って活動したいという思いからですが、制作を始めてみると、ガラスというのは北海道との親和性が実に高いことに気づきました。トランスペアレント(透明)な表情が、雪・氷の質感となじむんですね。また、冬場に感じるピンと張りつめたような空気の透明感が、ガラスという素材がもつ緊張感ととてもよく似ています。この環境のなかで、北海道ならではの表現を追求し、ガラスという朽ちない素材に吹き込むことで、北国の現在の生活のようなものを後世に伝えていく。そんなロマンも抱きながら、創作に取り組んでいます。
南区で表現を行う方々とも活動しつつ、
リアルなものづくりをみせていきたい。
南区に工房を構えたのは、たまたま良い場所が見つかったからですが、このエリアにはさまざまな表現をされている方が多いことを知りました。木工作家の山口大樹さんは、私の後に近所に工房を構えた木工作家さんで、2021年には2人展を行いました。地域で活動されている方々と機会をみつけて活動ができればと思っていますし、同時に、デジタル時代の若い世代に、私たちが格闘してきたリアルなものづくりの魅力を見せていくことも、20年以上ガラスに取り組んできた自分の役割かなと思っています。(談)
1979年 | 札幌市生まれ 2000年 東京国際ガラス学院基礎科 |
2000年 | 東京国際ガラス学院基礎科卒業 |
2001年 | 山梨県にてStudioπ(スタジオパイ)設立 |
2005年 | 札幌市南区石山に工房を移転 |
2012年 | 東京六本木ヒルズ 森美術館内アート&デザインストア A/D Galleryにて取扱い |
2013年5月 | 札幌大通ビッセにて個展 |
2013年12月 | リキッドガラスキャンドルシリーズの5種類が 札幌スタイルに認証される |
2015年 | ウィンザーホテル&スパ(洞爺湖)作品出品展示 |
2016年 | 「スナノヲモサ」(丸井今井・札幌) 「SORAZONES」(さいとうギャラリー・札幌) |
2017年 | 「夏の夜空」(丸井今井・札幌) 「のの -of of-」(三越・札幌) |
2018年 | 「こだわりの手仕事~陶器と硝子~作家二人展」 (丸井今井・札幌) 「Glassic」(三越・札幌) 「箸まくら。」(三越・札幌) 「エゾ鹿」(新宿伊勢丹・東京) |
2019年 | 「NO DARK.」(さいとうギャラリー・札幌) |
2020年 | 「小さな秋のガラス展」(三越・札幌) |
2021年 | 「木とガラス -Silhouette- 二人展」 (丸井今井・札幌) 「20 years exhibition」(三越・札幌) |
2022年 | 「石山で芽吹く木と硝子」(丸井今井・札幌) 5月開催 予定 |
主に宙吹きガラスで一点ものの作品を制作、インスピレーションを大切にしながら身近で気楽な、それでいて「かけがえのないモノづくり」をコンセプトに活動している。
studio π glass factory
住所:札幌市南区石山1条8丁目1-41
TEL:011-522-6225
https://test.sapporo-minami-artfes.jp/artists-file/1623