目の高さに空が見える山の環境、
特に冬の景色から発想を得ています。
私が学生の頃は、漫画は墨汁で描くのが一般的でし た。大好きな漫画を、私も墨汁で描いていましたが、墨 汁(墨)の特性の一つである〝滲み〞を使うことは、漫 画ではあまりないんですね。そこで、専門学校の卒業 制作では、あえて墨を使った作品に挑みました。
その時に制作した「幻(」1981年)という作品は、 アニメーション。少しずつずらした絵を何十枚も描い てコマ送りしていく手法です。ストーリーを描きたい といった発想はなくて、墨の濃淡や滲みの表情を表現 してみたい。そんな感じだったと思います。
白い余白、墨の黒と薄く滲んだ黒。それらが緩やか に動いていく表現がとてもおもしろく感じ、色のある ものよりむしろ表現の幅が広いことに気づいたんで すね。
当初は画用紙で、やがて和紙を使うようになると、 墨による表現の奥深さ、その魅力にどんどん入り込 み、独学でさまざまな技法を試していきました。8ミ リフィルムによる自主制作映画が全盛の頃に学生時 代を過ごし、私もずっと映像を撮っていました。その 延長線上としてアニメーションがあるのですが、卒業 したからといって食べていけるはずもなく、昼間は働 きながら夜に創作を行っていました。アニメの背景制 作の仕事もしましたが体力的に続かず……。いろいろな職業を経験しています。
それでも、所属していたアニメサークルで作品を発表し続けるなかで、NHK Eテレの子供番組・プチプチアニメから依頼をいただき「なんじゃもんじゃおばけ」という作品を制作しました。
それから間もなくでした。主人の仕事の関係で札幌に移住することになったんです。当時、アニメーションの仕事をするために東京で暮らしていました。色々な人との出会いや刺激がありましたが、生活する環境的としては厳しいなと……。そんなふうに感じていたなかでの移住話だったので、〝行こう、行こう!〟と大賛成(笑)。子どもが小学校に上がる時だったので、タイミング的にもいいなと。
仕事のやりとりを考えると、東京は便利です。札 幌では同じような仕事ができなくなるかもしれない、 という気持ちもありましたが、不思議と深刻ではなく て、〝雪が降るなんて、おもしろそうじゃない〞と。
そんな気楽さもよかったのでしょうか、次のプチプ チアニメ「柿の木もっきい」のお話をいただき、今度は 札幌で制作しました。当初は電話とファクスを使い、 原画を送って撮影してもらっていましたが、今はパソ コンとスキャナを使って自分で制作ができるように なって。ますます距離は感じなくなっていますね。
来札以来、4回引っ越していますが、いずれも南区・藤野エリア。北海道に来るまで経験のなかった山の近くでの暮らし、目線の高さに空が見えるという環境がとても落ち着きます。買い物の途中、作品制作に煮詰まったような時も、景色を眺めているとリラックスできますね。
そんな風景――山の木々などを見ていると、いつも 何かを描きたくなってきます。四季折々に、色彩や姿 が異なるのもいいですね。特に冬、雪が降ると、目に見 えるものすべてが墨の世界。その雪にもいろいろな種 類があることに気がついて、また新たな発想が生ま れ、作品の構想が浮かんだりすることもあります。色 がなくなる風景。私は見たことがなかったですし、作 品づくりにも、暮らす場所としても私にとって、とて も居心地がいいところですね。
自然と人と。南区の環境が
インスピレーションの源です。
近年は、東京からの仕事のほか、北海道神社庁の CM、北海道のテレビ番組など、道内での仕事も多く なっています。近所には演奏家や彫刻家、カメラマン など、さまざまな活動をしている方が多く暮らしてお り、コロナ前には住民の方々も巻き込んだイベントな ども行われていました。そこで新たな知り合いができ たり、お互いの活動の刺激になったりと、ますます 〝地元〞に根付いてきた感じです。このエリアには限 りませんが、将来的には、アニメーションの上映会な ども企画してみたいと思っています。たまたま移住し てきた南区ですが、いろいろな活動やインスピレー ションの源にもなっています。(談)
茨城県ひたちなか市出身
専門学校在学中より墨絵アニメーションを独学で制作。
主に和紙に墨や水彩を用いた手描きアニメーションにより、TV番組、CMなどのアニメを手がける。
<主な仕事> | |
1994年 | NHKプチプチアニメ「なんじゃもんじゃおばけ」 (1996年第6回国際アニメフェス広島大会入選、 1996年ワールドア ニメーションセレブレーション <ロサンゼルス>入賞) |
2003年 | 連句アニメーション「冬の日」参加 |
2005年 | 「GAKI琵琶法師」 (第9回文化庁メディア芸術祭 審査委員推薦作品、 2009年Sapporo Short Fest フィルムメーカー部門グランプリ) 2011年 サントリーHP「えこそだて」にて 「うごくえこよみ」のアニメーション |
2011年 | サントリーHP「えこそだて」にて 「うごくえこよみ」のアニメーション制作 |
2014年 | 「NHKみんなのうた/きみのほっぺ」 |
2016年 | 「みんなのうた/おばけのなみだ」 「天空のお花畑 大雪山~小さな賢者の物語~」 (NHKBSプレミアム) |
2020年 | アニメーションとイラストレーション担当 |
2021年 | 北海道神社庁CM 墨絵アニメーション制作 |
HP http://reikoyokosuka.blogspot.com/
https://test.sapporo-minami-artfes.jp/artists-file/1651